ショート・ミステリーズ!短編集その3
背後にいたうちの一人、坊主頭の男が、智春様のお顔を指さしました。

「オオ、この顔見たことがある。銀行屋の息子じゃねえか」

「何っ」と、その反対側にいた大男が言います。
「これは相当な獲物が手には入ったものだ。おい銀行屋の息子よ、金はたんまり持っているだろうな」

智春様は、大男を睨み付け、拳を震わせながら、「……財布を渡せば、解放するのだろうな?」

大男は腰に両手を当て、深く頷きます。
「ああ、勿論だとも。さあ、早く金を出しな」

智春様が懐に手を入れなさった時です。

ゴツン、と鈍い音がしまして、智春様は魂が抜けたように、膝をがっくりと折り、その場に崩れ落ちになりました。

振り返ると、背後にいた大男の仲間が、大きな石を手にしていたのです。

石には、智春様の血がべっとりと付いていました。
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