ショート・ミステリーズ!短編集その3
空気を切る、笛を吹くような音を、虚ろな意識で聞きながら、私は井戸の底に転落しました。

それは凄まじき衝撃でした。
ですが、痛みを覚える一方で、意識がはっきりしていくのを感じました。

まるで胎児のような格好で、私は井戸の底に横たわっていました。

緩慢な動作で体を起こし、頭上を見上げました。

かなり深い井戸でした。おそらく、私の背丈の、五倍の深さはあるでしょう。

壁面は、土壌が剥き出しになっており、所々に雑草が逞しく張り付いていました。

足元の地面はうっすらと湿っており、柔らかくなっておりました。
そのお陰で、転落の痛みが少し和らいだのだと思いました。
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