ショート・ミステリーズ!短編集その3
はじめに目についたのは、建物内の中央に置かれた、薄緑色のタンクだった。

まるでガチャポンの機械を巨大化したような形で、高さ3メートルはありそうだ。

そこからベルトコンベアのようなものが伸びていて、敷内をグルリと囲み、工場の奥へと繋がっている。

割れたガラス窓から夕日が差し込み、工場内をオレンジ色に染めている。

無造作に置かれたドラム缶の下から、油が床にしみ出しており、ヌメヌメと輝く水たまりを作っている。

鉄くさい空気に鼻をヒクつかせながら、僕は言った。

「ふうん、なんだかゾクゾクするね。静か過ぎて怖いくらいだ」

「でしょ?」
と、君は背中で手を組み合わせ、踊るように僕の前に歩み出た。

「2人きりになるには、丁度いい場所……」

「えっ?」
僕は間抜けな声を上げた。

「……何でもないわ」

君はつぶやくように言い、肩まで伸びた髪を揺らしながら、スタスタと歩いていった。
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