ショート・ミステリーズ!短編集その3
あの男たちになされた汚らわしい行為を思い出し、私は舌を噛んで死んでしまおうかと思いました。

ですが、それよりも、ここから出て智春様をお助けするのが先だと思ったのです。死ぬのは、それからでも遅くない、と。

私は両手両足を広げました。
壁面に、指と爪先を引っ掛け、やもりのように這い上がろうとしました。

しかし、数歩上ったところで、すぐにズルズルと落下してしまいます。

何度か繰り返すうちに、私はだんだん疲れを感じてきました。

地面に座り込み、膝を抱えて泣いてしまいました。

こんな薄暗い井戸の底で、ひとりで死ぬなんて、悲しすぎるからです。

ですが、朝になれば、誰かが通りかかってくれるかもしれないと思い、私はとりあえず眠ることにしました。

眠りに落ちていきながら、私は智春様を、そして田舎にいる父を思い出し、また泣いてしまいました。
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