ショート・ミステリーズ!短編集その3
次の日には、雨が降りました。

痛いほどの、喉の渇きを感じていた私は、上を向いて口を大きく広げました。

水を飲む喜びはほとんど味わえませんでしたが、顔に降りかかる雨が心地よく、気分がすっきりしました。

泥と雨水に汚れた私の服を見て、「女将様に叱られるわ」と独り言をつきました。

それが何だかおかしくて、私は無感動な声で笑いました。

そんな私の笑い声も、雨音の中に吸い込まれてゆきました。

雨は夜まで降り続き、私は膝を抱えて座っていました。

雨滴が私の前髪を伝い、額から鼻の先を通って、顎の下へ流れ落ちます。

心の中で、諦観と希望が競り合い、私は疲れを覚えてゆきました。

膝を抱えたまま、私は眠ってしまいました。
< 72 / 74 >

この作品をシェア

pagetop