ショート・ミステリーズ!短編集その3
もう十日を過ぎた日の夜、私は膝を抱えて横になりました。
頬は骸骨のようにへこみ、手足は棒のようになりました。
何日も身に纏った花木屋の着物からは、嫌な臭いがして、こんな姿は、智春様にはとてもお見せできないなと思いました。
その時、声を聞きました。
智春様の声です。
――須美さん、いらっしゃい。
横たわったまま、私は返事します。「智春様……何処におられるのですか……」
――目をつぶってごらんなさい。そこに私はいます。
「目を……?」
頭の中に響く智春様の声に従い、私は目を閉じました。
その瞬間、私の前に、懐かしい色町の風景が広がっていました。
大通りの左右に続いている遊女屋、茶屋、銭湯、傘屋。幻想的な色合いの提灯、ランプ。
行き交う人々。
郵便馬車。
商人。
警官。
船乗り。
誰かが私の肩を突っついています。
振り返ると、そこには智春様がいらっしゃいました。
「須美さん、いきましょう」と、智春は手を差し出しなさります。
私は、頬を桃色に染めながら、その御手に、私の小さな手を乗せました。
―了―
頬は骸骨のようにへこみ、手足は棒のようになりました。
何日も身に纏った花木屋の着物からは、嫌な臭いがして、こんな姿は、智春様にはとてもお見せできないなと思いました。
その時、声を聞きました。
智春様の声です。
――須美さん、いらっしゃい。
横たわったまま、私は返事します。「智春様……何処におられるのですか……」
――目をつぶってごらんなさい。そこに私はいます。
「目を……?」
頭の中に響く智春様の声に従い、私は目を閉じました。
その瞬間、私の前に、懐かしい色町の風景が広がっていました。
大通りの左右に続いている遊女屋、茶屋、銭湯、傘屋。幻想的な色合いの提灯、ランプ。
行き交う人々。
郵便馬車。
商人。
警官。
船乗り。
誰かが私の肩を突っついています。
振り返ると、そこには智春様がいらっしゃいました。
「須美さん、いきましょう」と、智春は手を差し出しなさります。
私は、頬を桃色に染めながら、その御手に、私の小さな手を乗せました。
―了―