ショート・ミステリーズ!短編集その3
もう十日を過ぎた日の夜、私は膝を抱えて横になりました。

頬は骸骨のようにへこみ、手足は棒のようになりました。

何日も身に纏った花木屋の着物からは、嫌な臭いがして、こんな姿は、智春様にはとてもお見せできないなと思いました。

その時、声を聞きました。
智春様の声です。


――須美さん、いらっしゃい。

横たわったまま、私は返事します。「智春様……何処におられるのですか……」

――目をつぶってごらんなさい。そこに私はいます。

「目を……?」

頭の中に響く智春様の声に従い、私は目を閉じました。

その瞬間、私の前に、懐かしい色町の風景が広がっていました。

大通りの左右に続いている遊女屋、茶屋、銭湯、傘屋。幻想的な色合いの提灯、ランプ。

行き交う人々。
郵便馬車。
商人。
警官。
船乗り。

誰かが私の肩を突っついています。

振り返ると、そこには智春様がいらっしゃいました。

「須美さん、いきましょう」と、智春は手を差し出しなさります。

私は、頬を桃色に染めながら、その御手に、私の小さな手を乗せました。


―了―
< 74 / 74 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

小緒良ノート
小緒良/著

総文字数/4,285

その他21ページ

表紙を見る
ひとっ飛び
小緒良/著

総文字数/10,678

青春・友情31ページ

表紙を見る
ショート・ミステリーズ!短編集その2
小緒良/著

総文字数/10,820

ホラー・オカルト69ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop