{霧の中の恋人}
「何もないよ…」
「一昨日の帰りぐらいからお前おかしいぞ。
どうしたんだ?
具合でも悪いのか?
何か悩み事があるなら聞くぞ?」
「だから何もないってば」
子供に話しかけるような優しい大ちゃんの口調が、余計に悲しくなった。
まるで、妹のようにしか思ってないと言われているようで、ついキツイ返事を返してしまった。
「じゃあ、さっきから何でこっちを見ないんだ?
話しかけても上の空だし。
俺のこと避けてねぇか?」
怒ったような大ちゃんの言葉に、ビクリと反応した。
大ちゃんのこと避けてるのバレてる…。
「そんなことないよ。
ちょっと授業が大変で疲れてるのかも。
私、次の授業の準備しないといけないからもう行くね」
私を呼びとめる大ちゃんの言葉を無視して、私は逃げるようにその場を去った。
私、最低だ。
大ちゃんは心配してくれていただけなのに。
でも、これ以上、大ちゃんと話すのが怖い…。