{霧の中の恋人}
『瑞希。気持ちはね、上塗りができるのよ。
悲しい気持ちになったら、楽しいことをしたり、美味しいものを食べたりするの。
悲しい気持ちは奥底に眠っているけど、楽しい気持ちで上塗りすれば、いつか悲しみも苦しみも、受け止められる日が必ずやってくるから』
これはお母さんの口癖だった。
友達と喧嘩したとき
先生に怒られたとき
私が落ち込んでいると、決まってお母さんはこの台詞を言って、晩御飯に私の好物を作ってくれた。
いろんな種類の野菜がゴロゴロ入ったクリームシチュー。
人参、玉ねぎ、じゃがいも、ほうれん草、とうもろこし……
色とりどりのそれは、絵の具のパレットのように賑やかで、見ているだけで明るい気分になれた。
牛乳と生クリームがたっぷり入った優しいお母さんの味。
今日の夕ご飯はシチューにしよう。
スーパーで、籠いっぱいに野菜をつめて帰宅した。