{霧の中の恋人}
ギュッと握りしめられた手を通じて、久木さんの熱が伝わってくる。
目の前にある伏せ目がちの瞳から、視線を外せない。
どうしよう。
何かドキドキする…。
喉の奥に何か貼りついているみたいで声がうまく出せない。
「…あ、あの久木さん」
上擦った声をノドから絞りだした時、久木さんの身体がグラリと傾いた。
「久木さん!」
よろめいた久木さんの身体を抱き締めるようにして支えた。
その拍子に、久木さんが手にしていた缶コーヒーの空き缶が床に落ちて、大きな音をたてたあと、床を転がっていった。
「大丈夫ですか!?」
「…ああ」
「とにかくもう寝たほうがいいですよ!」
私は足元おぼつかない久木さんを支えるようにして、久木さんの部屋まで付き添っていった。