{霧の中の恋人}

ギュッと握りしめられた手を通じて、久木さんの熱が伝わってくる。


目の前にある伏せ目がちの瞳から、視線を外せない。


どうしよう。

何かドキドキする…。


喉の奥に何か貼りついているみたいで声がうまく出せない。


「…あ、あの久木さん」


上擦った声をノドから絞りだした時、久木さんの身体がグラリと傾いた。


「久木さん!」


よろめいた久木さんの身体を抱き締めるようにして支えた。


その拍子に、久木さんが手にしていた缶コーヒーの空き缶が床に落ちて、大きな音をたてたあと、床を転がっていった。


「大丈夫ですか!?」


「…ああ」


「とにかくもう寝たほうがいいですよ!」



私は足元おぼつかない久木さんを支えるようにして、久木さんの部屋まで付き添っていった。




< 106 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop