{霧の中の恋人}
初めて見る久木さんの部屋は、すごくシンプルで久木さんらしい部屋だった。
中央の大きなベッド、黒い事務的な机と、その上に置かれたノートパソコン以外何もない。
無駄が一切ない。
…というより、必要なものも無理に省いている印象をうけた。
久木さんはフラフラとクローゼット開けて、パジャマをとりだした。
そして、それをベッドに放り投げると、今着ているものを脱ぎだした。
「ちょ、ちょっとここで着替える気ですか!?」
「自分の部屋で着替えてなにが悪い」
それはそうなんだけど、何も私がいる前で着替えなくても…!!
私はまわれ右をして、後ろを向いた。
背後でゴソゴソと着替える音がする。
しばらく経って、ベッドにどさりと倒れこむ音を確認したあと、恐る恐る振り向くと、パジャマに着替え終わった久木さんがベッドに寝そべっていた。
床に脱ぎ棄てられたセーターとジーンズを軽く畳んで椅子の上に置いた。
そして、久木さんに掛け布団をかけてあげる。
虚ろな目で、久木さんは大人しくその様子をみていた。
「久木さん、病院に行ったほうがいいですよ。
熱も高いみたいですし」
「…必要ない。
君には関係ないだろう。
ほっとけばいい」
久木さんの言葉にカチンときた。