{霧の中の恋人}
「関係ないことないでしょう!
家族なんだもの!
心配するのは当然のことです!」
思わず荒げてしまった私の声に、久木さんは目を見開いてビックリしている。
そのあと、深いため息を吐いて、手を額にあてた。
「…とにかく病院には行きたくない。
寝ていれば治る。
たまにこういう事があるんだ。
だから、君が心配するようなことはない…」
もうっ!
頑固者!
病院に行きたくないって駄々っ子か!!
これ以上、何を言っても無駄だと思った私は、久木さんを病院に連れていくことを諦めた。
「じゃあ寝ててください。
私、薬局で薬とかいろいろ買ってきますから」
お母さんが常備していた風邪薬も残り少なかったはずだし、スーパーで栄養のあるものとかスポーツドリンクとか買ったほうがいいよね。
そう思って立ちあがろうとした私の腕を何かが掴んだ。
後ろを振り向くと、布団から伸びた久木さんの手が私の腕を掴んでいた。
「…行くな」
今にも消え入りそうな細々とした声で久木さんは言った。