{霧の中の恋人}
薬を飲んでもらうために、雑炊を作った。
今日買ってきた野菜の残りをたくさん入れた野菜雑炊。
少しでも栄養のあるものを食べて欲しい。
普段、あんな食生活を送っているから、いつか身体を壊すんじゃないかと思っていた。
とにかく今は栄養のあるものを食べて、ゆっくり休んでもらいたい。
お盆に雑炊の入った土鍋と、冷たいお茶を乗せて久木さんの部屋に運んだ。
「久木さん、雑炊作りましたよ。
食べられますか?」
私の言葉に反応して、丸まった布団がゴソリと動く。
布団から覗く瞳が、大きく揺れていた。
「…ぞーすい…」
まるで、産まれて初めて発した単語のように、たどたどしい言葉だった。
「野菜の雑炊です。
たくさん入れたから栄養がたくさんありますよ」
「……。俺のか?」
「何言ってるんですか。
久木さんに作る以外ないじゃないですか」
久木さんは、しばらくジッと動かないまま固まっていたが、そのうち布団からのそりと身を起こした。
「テーブルがないから布団の上にお盆を置きますね」
「………」
目の前の雑炊をジーッと見つめたまま、何を言わずそれを見つめている。
久木さん、どうしたんだろう?
マズそうに見えるとか?
「久木さん食べられますか?
でも、食べないと薬が飲めませんよ」