{霧の中の恋人}
「すまないって何がですか?」
「…君には、本当に申し訳ないことをした…」
苦しげに吐きだされた久木さんの声は、耳を澄まさないと聞き取れないくらい弱々しいものだった。
「…君だけは…絶対に…」
久木さんが私の手を握り返した。
力が込められた手から、熱が伝わって身体が熱くなる。
「俺が守る……。
残された君が、幸せに……」
何かに耐えるように、眉間に皺をよせて、久木さんは目をギュッと閉じる。
それきり、久木さんの反応がまたなくなった。