{霧の中の恋人}
それから一晩───
久木さんの部屋で夜を明かした。
ぬるくなったタオルを換え、手を握るくらいしか出来なかった。
悪い夢でも見ていたのだろうか。
久木さんは、うなされては目を覚ますことを繰り返していた。
浅い眠りばかりで、あまり眠れていなかったのかもしれない。
「すまない」
「行かないでくれ」
荒い呼吸の中で吐き出された寝言は、誰に対して向けられた言葉だったのか。
私?
それとも────…