{霧の中の恋人}
食卓に並んだ2人分の食事
3日間、私は大学とバイトを休んだ。
病人の久木さんを1人残すのは心配だったし、それを彼が許してくれなかった。
大学どころか、外に買い物に行く事でさえ、久木さんはダメだの一点張りで、結局3日間家から一歩も出ずに過ごした。
久木さんの制止を振り切って外出することは出来たんだろうけど、何かに怯えるような、悲しげな瞳を向けてくる久木さんを置いて出ていくことは出来なかった。
という訳で、我が家の冷蔵庫の中身は空っぽの状態。
そろそろ買い物に行きたい。
「久木さん…」
久木さんの部屋のドアをノックして、そーっと部屋のドアを開けると、久木さんはベッドの背もたれに寄りかかって読書をしていた。
チラリと向けられた視線が「何か用か」と問いかけてくる。
「…あの、そろそろ買い物に行きたいんですけど…」
何故、買い物に行くだけで、こんなにビクビクしなければならないのだろうか。
「ダメだ」
「すぐ帰ってきますから」
「ダメだ」
「もう冷蔵庫に何もないんです。
だから買い物に行かないと食べるものがないんですけど…」
「………」
久木さんは長い溜め息を吐きだして、本をパタンと閉じた。
そして、布団から抜け出すと、クローゼットの中から一つの段ボールを取り出した。
「それならこれを食べるといい」
そう言って、開けられた段ボールの中から出てきたのは、ビスケットの簡易食だった。
それも、段ボールいっぱいの量だ。
「それじゃあ食事になりません!」
「まだある」
クローゼットの中からもう一つ取り出された段ボール。
開けると、手早く食事ができるというのが売りの、飲料ゼリー。
「………」
私は唖然として、脱力した。