{霧の中の恋人}

買い物客で賑わうスーパーの中で、似つかわしくない人が1人。

私の後ろを無言でついてくる久木さん。


なんでだろう…。

誰もが訪れるような場所なのに、なんでこんなにもスーパーという場所が、この人は似合わないんだろう。

1人浮いてみえる。

全身黒い服装のせいかな?


ちょっと新鮮かも…。


久木さんにスーパーというミスマッチな光景に、ちょっと可笑しさを噛みしめながら、食材をどんどんカゴの中に入れていく。


冷蔵庫の中が空っぽだから、買いたかったものが溜まっている。


「久木さん、今晩はもう普通のご飯でいいですか?
何か食べたいものとか…」


振り返ると、背後をついてきた筈の久木さんの姿がいなくなっていた。


「あれ?」


後ろの道を見渡してみると、一つの人だかりが出来ていた。


「お兄さん、かっこいいわね~!
コレ、食べてってよ!
美味しいわよ~」


「あら、ジュースも飲んでって!
こっちも美味しいんだから。
野菜がたくさん入ってて栄養があるのよ」


「お兄さん、ハムだよ。
これも食べていきな!」


「………?」


試食のおばちゃん達に取り囲まれて、困惑している久木さんの姿があった。


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