{霧の中の恋人}
「なんなんだ一体…」
四方八方から試食品を勧められて、困惑状態の久木さん。
手にはたくさんの試食品が乗せられていた。
「久木さん、何やってるんですか?
行きますよ」
このままではすべて買わされそうな勢いだったので、私は久木さんの手を引っ張って、その人だかりを抜けた。
「あらあら、可愛い奥さんだこと」
「若い新婚さんでいいわね~」
背後からおばちゃん達の会話が聞こえる。
新婚さんってっ!
奥さんって!
恥ずかしさで顔が熱くなった。
後ろにいる久木さんの顔をチラリと窺うと、涼しい顔でもらった試食品の健康ジュースを飲んでいた。
「なるほど…これで一日の栄養分が補給できるのか…」
いい物を見つけたと云わんばかりの満足げな表情を浮かべ、関心するように頷いている。
この人は…。
またこんな物ばかりで食事を済まそうとしてるんじゃないかしら…。