{霧の中の恋人}

「タイムセールです!
卵がワンパックで、なんと99円!
50人様限定で、早い者勝ちですよ~!」


遠くのほうから、鐘の音とともに、景気のいい掛け声が響き渡る。

このスーパーは、突然タイムセールを行うことで有名だ。


場所も時間も分からない。

突然ワゴンが出てきて、その場でタイムセールを行う。


神出鬼没なセールに出会うことが出来たらラッキーなのだ。


「卵がワンパックで99円!?」


安い!

いつもより100円くらい安いよ!


私は迷うことなく、声のするほうへ走り出した。


「おい!どこに行くんだ!」

突然走りだした私のあとを久木さんが追いかけてくる。


「タイムセールです!」

「タイムセール?なんだそれは…」


すでに安売りの卵のワゴンの周りには人だかりが出来ていた。


ワゴンに手を伸ばそうにも、人だかりに巻き込まれて、到底卵まで手が届きそうにない。

主婦のおばさん達にもみくちゃにされて、人だかりから押し出されてしまった。


「きゃあぁ!」

「君は一体何をしているんだ?」


呆れたように溜め息をついた久木さんが、倒れこみそうになった私の身体を受け止めてくれた。


「あの真ん中のワゴンにある卵が欲しいんです…」


限定50パックって言ってたから、すぐなくなっちゃうよ!


久木さんは人だかりに近寄り、おばさん達の頭上からスッと手を伸ばして軽々とワンパックの卵を手に取った。


「これでいいのか?」


すごい…。

背が高いから、人だかりに入ることもなく、いとも簡単に卵がとれてしまった。


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