{霧の中の恋人}
「そうです!ありがとうございます!」
99円の卵を手にすることが出来た私は大満足。
笑顔でお礼を言った。
「卵ならあっちにも売ってるじゃないか。
なんでコレなんだ?」
久木さんは普通に売っているワンパック185円の卵を指さして言った。
「あれは安売りじゃなんです。
これは99円で、いつもより100円ぐらい安いんですよ!」
「君は100円の為にこんな苦労するのか…?」
久木さんはまったく分からないといった怪訝な表情を浮かべる。
「100円も安いなんて滅多にないんですよ!
100円を笑う者は、100円に泣くんです!」
「わからない…」
久木さんは頭を抱えて、左右に振った。
お金をたくさん持っている人には分からないかもしれないけど、私は母子家庭で裕福じゃなかったんだもの。
家計を守るためなら1円だって安いものを買いたい。
…というのが、昔からの信条だった。
「タイムセールです!
キャベツが1玉50円!」
また遠くのほうで声がかかる。
「久木さん!またタイムセールですって!」
最近、野菜が高騰している中で50円は見過ごせないわ!
「おい!ちょっと待て!」
久木さんの声を無視して、”一円でも安く”の信条のもと、私は走り出した──…。