{霧の中の恋人}
「久木さん、人参食べないんですか?」
「…これはいいんだ」
「よくないです。
ちゃんと食べないとまた風邪を引きますよ」
久木さんは嫌そうな顔をして、お皿に残った人参をスプーンで突っつく。
「もしかして…久木さんニンジン食べられないんですか?」
私が聞くと、久木さんは「そんなことはない!」と言って、ニンジンを勢いよく口に入れた。
バクバクと一気にニンジンを口に入れて、平気そうな素振りで食べてたけど、眉間に寄せられた皺をわたしは見逃さなかった。
強がっていたけど、久木さんニンジン嫌いなんだ…。
子供みたいで可愛かったな。
「フフフ…」
思い出し笑いをこぼすと、隣に座る生徒からの怪訝そうな視線を感じて、私は口元を引き締めた。
「じゃあ、今日はここまで」
教壇に立つ先生からの言葉で、結局、集中できなかった授業が終わった。