{霧の中の恋人}
久木さんのニンジン嫌いを直せるメニューを考えよう。
キャロットスープ…
ハンバーグ…
1人分の食事を作るのは億劫だけど、誰かのために料理を作るのは久しぶりだった。
誰かの為に作る料理って、楽しいんだよね。
「瑞希ーー!!」
私が今日の夕飯について考え込んでいると、背後から私を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、泉が息を切らせてこちらに走ってくる。
「どうしたの泉?
そんなに慌てて…」
「どうしたの?じゃないよー!
心配したんだよ!
携帯の電話にも出ないし、メールも返事がないし!」
この何日間か、久木さんの看病で、携帯の存在をすっかり忘れていた。
一つのことに夢中になると、周りが見えなくなる。
私の悪い癖だ。
「ごめんね。すっかり忘れてて…」
「もうっ!瑞希が大地くんの噂のことで落ち込んでるんじゃないかって、心配してたんだからー!
大学にも来なかったし!」
「大ちゃんの噂?」
「えっ?もしかして瑞希知らないの?」
嫌な予感が、私の脳裏をかすめる。
「大地くん、サークルのマネージャーと付き合いだしたって噂になってるんだよ!」
泉の言葉が耳に入った途端、頭の中が真っ白になった。
大ちゃんがマネージャーと付き合いだした…?