{霧の中の恋人}
目を閉じると大ちゃんの笑顔が浮かんでくる。
大ちゃんの声が聞こえてくる。
それを振り払うように、布団に縮こまった。
『私、おおきくなったら大ちゃんのお嫁さんになる!』
『しょうがねぇな、もらってやるよ!』
『大ちゃんホント!?』
『ああ!それでお前のお母さんも一緒に住めるような大きな家を建ててやるよ!
そしたら寂しくないだろ?』
『うん!ありがとう大ちゃん!』
『じゃあ、婚約指輪をやらないとな』
『こんやくゆびわ…?』
『結婚するって約束したら、婚約指輪っていうのをあげなきゃいけないって母さんが言ってたんだ』
『わーい、こんやくゆびわ!』
それから一緒に駄菓子屋に行って、大ちゃんはオモチャの指輪を私に買ってくれたね。
『結婚するって約束したんだから、他のやつから婚約指輪をもらっちゃダメなんだぞ』
って言って、薬指にブカブカの指輪をはめてくれた。
赤いプラスチックの飾りがついたオモチャの指輪。
キラキラしてて、それから私の宝物になった。
私、今でもその指輪持ってるんだよ。