{霧の中の恋人}
『大ちゃん、やっぱり怖いよ…
戻ろうよ…』
『大丈夫だって!
俺がついてるから!』
『でもこんな夜に森の中歩くなんて危ないよ…
坂ばっかりで足元みえないし…』
『じゃあ、俺の手を握ってろよ。ほら』
『…ありがとう…。
でも、この先に何があるの?』
『ついてからのお楽しみ』
町内会のキャンプに参加したとき、夜こっそりと抜け出して、大ちゃんは私をある場所に連れて行ってくれた。
きつい山道をのぼり切ったところに、遠くに見える街中の夜景と、満天の星空が広がっていた。
『すごいだろ?
さっき見つけて、瑞希に見せてやりたいって思ったんだ』
『うわぁ!本当にきれいー!』
大ちゃんと見た、あの時の夜景と星空は今でも忘れていない。
帰りに私が足を滑らせて怪我をしてしまって、大ちゃんはおんぶをして山をおりてくれた。
あの時の、大ちゃんの背中のぬくもりだって忘れていない。
キャンプ場に戻ったとき、私たちがいなくなって心配した大人達に怒られたとき、大ちゃんは私をかばってくれたね。
『瑞希を連れ出して、怪我までさせてしまってすみませんでした!
全部オレの責任です!』
そう言って1人で怒られて、『瑞希、怪我させちゃってごめんな…』って謝りながら手当をしてくれた。