{霧の中の恋人}
食パンを焼いて、目玉焼きにコーヒーという簡単な朝食を2人で食べているとき、久木さんが口を開いた。
「…今夜はシチューが食べたい…」
「へっ?シチューですか?それ一昨日も食べましたよ?」
私が答えると、久木さんは食パンにバターを塗りながら「それでも食べたい」と言った。
「別にいいですけど、何かあるんですか?」
「……君が言ったから…」
「へっ?」
「シチューを食べてるとき、君がこれを食べると元気になるって言ってたから…」
久木さんは言葉を濁すようにボソボソと言った。
確かに、私はシチューを食べているとき久木さんにそんな話をした気がする。
『元気がないとき、よくお母さんが作ってくれたんです。
このシチューを食べてると、元気になれるような気がするんです』
もしかして、私のことを心配してくれてる?