{霧の中の恋人}
私に元気がないから、私が元気になるって言っていたシチューをリクエストしたの?
昨日の夜、夕食の席を途中で立ったことを心配して、私の様子をみるために朝早く起きたとか?
「…でも久木さん、シチューにまた人参が入ってますよ」
「………っ!」
久木さんは肩をビクリと反応させた。
その様子に笑いを噛みしめながら、私は言った。
「ニンジンは細かく切りますね」
私の台詞に、久木さんは手を口元に当ててそっぽを向きながら「…そうしてくれ…」と呟く。
顔を少し赤らめながら、乱暴にコーヒーを啜る彼の様子を眺めながら、
私は笑った。