{霧の中の恋人}

午前中の授業が終わって、学食で軽く昼食を済ませたあと、気がつけば私はフットサル場に足を向けていた。


フットサル場に近づくにつれて、掛け声やボールを蹴る音が大きくなっていく。

それと同時に、私の心臓の音も大きくなる。


大ちゃん、いるかな…。


ドキドキしながらフットサル場に目をやると、すぐに大ちゃんの姿を捉えた。


こんなに遠くからでも、一発で大ちゃんを見つけ出せる。


もう何年も大ちゃんを見つめ続けてきたんだもん。

人ごみの中からでも、大ちゃんを見つけ出せる自信がある。


それが、今は少し悲しい。



「10分休憩ー!」


ホイッスルの音と共に、大ちゃんの声が響き渡る。


その掛け声で、プレイをしていた人たちが次々とベンチに戻っていく。

ベンチに腰掛け、タオルで汗を拭っている大ちゃんに、1人の女の子が近づいてくる。


─マネージャーのなっちゃんだ…


大ちゃんに笑顔でドリンクとレモンの蜂蜜漬けを差し出し、それを大ちゃんも笑顔で受け取る。

周りから、はやし立てるような声が上がった。


──ズキン…





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