{霧の中の恋人}
この人にはきっと敵わない。
そう思った私は、早々と退散することにした。
「水原部長、わたしこのへんで失礼しますね」
逃げ出すように立ち去ろうとしたとき、後ろから信じられない言葉が投げかけられる。
「そんなにショックならさ、僕と付き合わない?」
思いがけない言葉に驚いて、勢いよく後ろを振り向く。
「付き合うって…
からかわないで下さい」
水原部長って、すごく軽い人なの?
確かに、この人ならすごくモテそうだし…。
「冗談でもからかってもいないよ。
それに、誰ふり構わずこんな事を言うような軽い男でもないつもりだよ」
私の考えることがバレちゃってる…。
「でも…
この間、知り合ったばかりなのに有り得ません」
「そうだね、会って間もない人にこんな事を言うのは可笑しいかもしれないね。
僕も君のことをまったく知らないし」
「だったら…!」
「一目ぼれって信じる?」
「えっ?」