{霧の中の恋人}
やっぱりマズかったかしら…。
お茶を淹れながら、私は深い後悔に襲われていた。
ダイニングテーブルの椅子に座る男を見て、こっそり溜め息を吐く。
あの後、怒って興奮した私が大声で話したもんだから、近所の人が何事だと顔を覗かせた。
騒ぎになる前に、この男を家に招きいれたんだけど……。
こんな夜遅くに、初対面の男を家にあげるなんてどうかしてる。
よく考えたら危ないよね。
近所の人に事情を話して助けてもらえば良かった…。
どちらかというと細身の体系そうだけど男の人だもん。
力で勝てるはずがない。
いざという時は、警察を呼ぼう。
私はジーンズのポケットに納められた携帯の存在を、手で確認した。
「粗茶ですが……」
お茶を差し出すと、男は眉間に皺をよせて、信じられないといったような表情を浮かべた。
「君は、バカか?」