{霧の中の恋人}
「大地くんにとって瑞希さんが妹のような人なら、家族も同然でしょ?
だから私も瑞希さんと仲良くしたいなって思ったの。
これから宜しくね。瑞希さん」
松本さんは私の手をとって、痛いくらいの力でギュッと握りしめた。
痛い…
握られた手も、松本さんの言葉も……。
私はただ、曖昧な笑みを返すことしか出来なかった。
「じゃあ、またね瑞希さん!」
嬉しそうに手を振って立ち去る松本さんの後ろ姿がジワリと滲む。
駄目…
こんなところで泣いちゃ…。
気を抜くと涙が溢れてしまいそうになるから、喉に力をいれて、必死で堪える。
不意に、頭の上に何か温かいものがフワリと落ちてきた。
驚いて見上げると、私の頭に手が乗せられていた。
「牽制…だね」
水原先輩だ。
松本さんが去っていった方向を見つめながら水原先輩は言った。
「辛い思いをしたね…」と、私の頭をポンポンと優しく叩いて、それから彼は私の隣に座る。