{霧の中の恋人}
「水原先輩!?」
慌てて離れようとするが、頭を押さえられててそれが出来ない。
「…そんな顔で笑われても益々心配になるよ…。
無理しないで、泣きたいときに泣けばいいんだよ」
水原先輩の優しい言葉が胸に響く。
一度ひっこんだ涙がまた零れそうになる。
私は必死でこらえて頭を横に振った。
「君は頑固だね…
大地の気持ちが少し分かった気がするよ…」
言葉の意味を聞こうと思ったけど、何か喋ると涙が出そうになるから聞けなかった。
ずっと押し黙る私に、水原先輩は肩を貸してくれて、赤ちゃんをあやすように頭を優しく叩き続けてくれた。
水原先輩の手のひらの温もりと、ポンポンと一定のリズムを感じながら私は目を閉じる。
影から覗く視線に気がつかずに────…。
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─────────…。