{霧の中の恋人}
「また泣いているのか」
背後から突然の久木さんの声。
私は顔を上げることが出来ずに、俯いたまま「泣いてません」と答える。
「じゃあ、どこか具合でも悪いのか?」
この問いかけには首を横に振るだけで答えた。
感じが悪いけど、今は顔を上げることは出来ない。
きっと今の私、すごく酷い顔をしているだろうから…。
そのうち背後から、久木さんの気配が消えた。
そして、遠くのほうでドアが閉まる音が聞こえる。
きっと久木さんは自分の部屋に戻ったんだ。
今はそっとしておいて欲しい。
大ちゃんに何てメールの返事をしよう。
やっぱり聞かなきゃダメかな…。