{霧の中の恋人}
「…は?」
「夜遅くに訪問してきた初対面の男を家に招きいれ、お茶まで差し出すなんて、危機管理が出来ていなさ過ぎる」
訪ねてきたお前が言うな!!
私は叫び出したい衝動を抑えるのに必死だった。
グラグラとお腹の底から怒りが沸きあがってくる。
でも、ここで怒ったってしょうがない。
きっとまた話が進まないだけだ。
それより、さっさと用件だけ聞いて追い返そう。
それがいい。
「それで、貴方は一体誰なんですか?」
「久木 紫蘭」
男…久木さんはそれだけ言うと、私の淹れたお茶を啜った。
「さっきアナタ…久木さんが言っていた事はどういうことですか?
何故、私がこの家を出なければならないのでしょう?」
「先ほど告げた通りだ。
君はこの家を一週間後に出て、私と暮らしてもらう」