{霧の中の恋人}

「嘘!」


私は大ちゃんの胸を両手で押して、大ちゃんの身体を引き離した。


「大ちゃん、松本さんと付き合ってるんでしょ!?」


「お前の耳にまで届いていたのか…」



大ちゃんは頭をガシガシと掻き、まいったなと呟いた。


「彼女がいるのに、なんでそういう事言うの!?
おかしいよこんなの…」


「違う!彼女じゃないんだ!
本当に付き合ってるんじゃなくて、フリなんだ!」



フリ?

訳が分からなくて首をかしげている私に大ちゃんは言った。


「松本から頼まれたんだ。
彼氏のフリをしてくれって」


「彼氏のフリ?
なんでそんな事を…」



大ちゃんは事細かく、説明してくれた。


付き合っていた彼氏に、「別れて欲しい」と別れ話をした松本さん。

でも、その彼氏は「別れない」と言い張ってしつこかったらしい。


それで思わず「新しい彼氏ができた」と言ってしまった松本さんに対して、その彼氏は「だったら新しい彼氏を見せろ」と言ってきた。


暴力をふるってきたり、暴言を吐く彼氏と一刻も早く別れたかった松本さんは、大ちゃんに泣きながら「新しい彼氏のフリをしてほしい」と懇願してきた…


という訳だった。



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