{霧の中の恋人}


…この男と暮らす?


冗談じゃない!!

何を言い出すの、この男は!!

やっぱりこの人、変だよ!


「なぜ知り合いでもないアナタと暮らさなければならないんですか!」


「これは、君のお母さんの意思だ」


そう言って、男は上着のポケットから白い封筒を取り出し、それをテーブルの上に置いた。


その白い封筒の中央には、筆書きで『瑞希へ』と書かれている。


「君のお母さんの手紙だ。見るといい。
何かあった時、君に渡すよう頼まれていた」



──お母さんの手紙…?

嘘だ。


失礼極まりないこの男の言うことだ。

信用できるはずがない。


でも中央に書かれている文字は、確かに見覚えのあるお母さんの字だ。

ちょっと丸字で、流れるような優しい字。


私はその文字に吸い寄せられるように、封筒を手にとった。





< 17 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop