{霧の中の恋人}
…この男と暮らす?
冗談じゃない!!
何を言い出すの、この男は!!
やっぱりこの人、変だよ!
「なぜ知り合いでもないアナタと暮らさなければならないんですか!」
「これは、君のお母さんの意思だ」
そう言って、男は上着のポケットから白い封筒を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
その白い封筒の中央には、筆書きで『瑞希へ』と書かれている。
「君のお母さんの手紙だ。見るといい。
何かあった時、君に渡すよう頼まれていた」
──お母さんの手紙…?
嘘だ。
失礼極まりないこの男の言うことだ。
信用できるはずがない。
でも中央に書かれている文字は、確かに見覚えのあるお母さんの字だ。
ちょっと丸字で、流れるような優しい字。
私はその文字に吸い寄せられるように、封筒を手にとった。