{霧の中の恋人}
「納得してくれたか?」
「…うん…」
大ちゃんは私の肩に頭を乗せて、息を大きく吐き出した。
「はぁー…やっと言えた…。
たった一言言うために、一体何年かかったんだろ…。
瑞希に先に言われちまうし…情けねぇ…」
もしかしたら大ちゃんも、私と同じことを考えていたのかもしれない。
幼馴染という関係を壊したくない…と。
大ちゃんはますます腕に力をいれて、ギュッと私を抱きしめて言った。
「瑞希…好きだ」
長年、ずっと思い描いていた夢が今叶った。
痛いくらいに抱きしめてくる腕の力で、大ちゃんの真剣な思いが伝わってくる。
私もそっと大ちゃんの背中に腕を回した。
大ちゃんの身体の熱に包まれて、幸せを実感する。
──温かい…。
こんな幸せは今までにあっただろうか…。
頭の中で、あの曲が流れだす。
幸福に満ちた、温かな優しい曲──
──あの曲は、何ていうんだろう。
大ちゃんの腕の中で、そんなことを考えていた。