{霧の中の恋人}
「大地くんの気が引きたくてついた嘘に決まってるじゃない!
気がつかなかったの!?」
嘘……だったの?
もしそうなら、ちょっと酷い…
優しい大ちゃんの気持ちを利用して嘘をつくなんて…。
「まあ、松本さんのことは済んだんだからどうでもいいとして…」
泉は缶コーヒーをグイっと一気飲みしてから言葉を続けた。
「水原先輩にはちゃんと断りに行ったの?」
泉の言葉に、ドキリとする。
「…まだなんだ…」
やっぱり好きだと言ってくれた相手に、報告はするべきだよね。
きちんと断らないと…。
「でも、もったいない気もするわね~。
なんて言ったって、水原財閥の御曹司だからね」
「水原…財閥?御曹司?」
「もしかして瑞希、知らなかったの!?
水原グループって言ったら、不動産やらホテルの経営をしてて超有名じゃない!
その水原グループの跡取り息子ってだけでもスゴイのに、それに加えてあのルックスじゃない?
大学の中でも一番人気なんだよ!」
…そうだったんだ…。
水原グループって名前は知ってたけど、まさか水原部長がその御曹司だったとは知らなかった。
『就職活動しなくていい身』って言ってたのは、この事だったんだ…。