{霧の中の恋人}
泉と別れたあと、さっそく水原部長のもとを訪ねた。
水原部長は、使われていない古い教室の窓辺で本を読んでいた。
窓から入る太陽の光に照らされ、薄茶色の髪の毛がキラキラと輝き、白いシャツが反射して眩しい光を放っている。
まるで、水原部長自身が輝いているみたい───
銀縁のメガネの奥に隠された瞳が、私を捉えた。
水原部長はすべて状況を理解していたみたいで、私の顔を見るなり「大地とうまくいったんでしょ?」と言った。
「…はい…だから私…」
「俺とは付き合えない……でしょ?」
「はい、気持ちはすごく嬉しかったんですけど…」
誰かに思いを伝えるというのは緊張する。
それが告白であっても、断りをいれるというのも…
「そんな顔しないで。
全部分かっていたから」
「分かってた?」
水原部長はゆったりとした動作でメガネを外した。
「初めから分かっていたよ。
君達2人、お互いに思いが通じ合っていることは…」
水原部長は薄く微笑む。
「大地がトラブルに巻き込まれているみたいだったから、あわよくば俺にもつけ入る隙があるんじゃないかと思ってね」
「まあ、それも無駄だったけどね」と水原部長は自嘲的に笑う。