{霧の中の恋人}
「どうでもいいが…
さっさとしないと”初デート”とやらに遅れるぞ。
待ち合わせはK駅に10時なんだろ?」
久木さんの言葉に飛び跳ねる。
今何時!?
時計を確認すると、間に会うか間に合わないかの瀬戸際の時間だった。
ギャー!初デートに遅刻なんて有り得ないよ~!
………。
「…って、どうして初デートとか待ち合わせの時間まで久木さんが知ってるんですか?」
「昨日の夜、君が部屋で騒いでいたじゃないか。
”明日初デートなのにニキビできちゃった。どうしよう”って。
夜から朝まで騒いでこっちはいい迷惑だ」
そういえば、泉と電話したとき興奮してそんな事を大声で言っていた気がする…。
久木さんは眉間に皺を寄せたまま、大きなアクビをした。
デートって聞いても平然としちゃって…
そんな事、どうでもいいみたい…。
ズキンッ────
胸に、微かな痛みが走る。