{霧の中の恋人}
……って、何考えてるのよ。
私がデートしようが久木さんには関係ない事じゃない。
胸の痛みを追い払うようにブンブン頭を振る。
「君が挙動不審なのは今に始まったことじゃないが…
挙動不審もいい加減にしておかないと、本当に遅れるぞ」
………。
あーー!そうだった!遅刻!
「久木さん!朝ご飯と、夜ご飯は冷蔵庫に入ってますからレンジで温めて食べてください!
ついでにお昼ご飯は、昨日の残りのもので良かったらお鍋の中にポトフが入ってますから!」
──ガシッ
走り去ろうとする私の腕を、力強く久木さんが掴んだ。
「ちょっと待て」
真剣な久木さんの表情に射抜かれる。
そのままグイっと腕を引き寄せられ、久木さんの頭がわたしの首元に回った。
な、なに!?
久木さんの髪の毛が、私の耳をくすぐる。
何なの一体!?
スッと久木さんの手が伸び、私のうなじに触れる。
私は思わず、ギュっと目をつぶった───
「SALE品 3980円……」
……えっ?