{霧の中の恋人}
シラン
最近、久木さんの様子がおかしい。
無表情で、無口なのは前からだけど、最近では私の顔を見ようともしない。
夕飯のときも無言で食べ続け、食べ終わるとすぐに自分の部屋に戻ってしまう。
前は少しだけど雑談もあったのに…。
静かすぎる夕飯の席で、私は窺うように彼の顔をチラリと盗み見た。
「………」
やっぱり無表情。
機械のようにパクパクと食事を口に運んでいる。
私は居た堪れなくなり、久木さんの名を呼んだ。
彼はそれに反応して、視線だけこちらに寄こした。
「あ、あの久しぶりにヴァイオリン弾いてくれませんか?
また聞きたくなっちゃって」
「…ああ」
良かった。
素っ気ないけど、低い冷たい声だったけど、ちょっと怖かったけど、ちゃんと返事してくれた…。
ホッと肩を撫でおろした。
…って、私なんでこんなにビクビクしてるんだろう…。