{霧の中の恋人}
リビングに不知火さんを通して、お茶をだした。
「久木さんなら、もうすぐ夕飯の時間なので帰ってくると思いますよ」
「へっ?夕飯?
もしかして瑞希ちゃんが作ってるの?」
「はい、ちょっと前に久木さんが倒れて。
それ以来、生活費のお礼も兼ねて、私が作らせてもらってるんです」
「…あのシランが…」
不知火は、目を見開いてポカンと口を開けている。
まるで幽霊と遭遇したかのような表情だ。
「へ~、あのシランがねぇ。
いや、ほんと驚いた!」
大袈裟なぐらいの大きな動作で、ソファーの背もたれに倒れこんだ。
「あの…何か珍しいことでもあるんですか?」
「珍しいも珍しい!
ツチノコを捕まえるぐらい珍しいね!
あのシランが、人の作った食事を、それも一緒に食べるなんてまず有り得ないね!
この間、そそくさと帰るアイツに何か用でもあるのか?って聞いたら、アイツなんて答えたと思う?」
「…さあ…」
「夕飯の時間だから帰る、って一言!
小学生か!って、その時はツッこんだけど、アイツ瑞希ちゃんの夕飯を食べるために急いで帰ってたのかー!」
それから不知火さんは大笑いした。