{霧の中の恋人}
「へっ?シランの様子がおかしい?」
「ええ、ここ数日のことなんですけど、どこか様子がいつもと違うというか…。
不知火さん、何か知りませんか?」
「ここ数日ねぇ~…最近、アイツと会ってなかったからなぁ」
腕を組んで考え込むように不知火さんは言った。
「そうですか…。
久木さんの考えていることがよく分からなくて…」
「アイツの考えてる事なんて誰も分からないんじゃないかなぁ。
前にも言ったけど、シランの奴、小さいとき親に捨てられたって言ったろ?
それでだと思うんだけど、人に対して心閉ざしちゃってるからなぁ」
その話、前にも聞いた。
人に心閉ざしてるって、友達の不知火さんに対してもそうなんだ…。
「口では言わないけど、あいつ親に捨てられたこと、すごく恨んでるみたいなんだ…。
それがトラウマになってるんだと思う」
「何余計なこと言ってるんだ?」
背後から、ヒヤリと冷たい声が響いた。
噂をすれば何とやら…
振り向くとそこには、無表情の久木さんが立っていた。