{霧の中の恋人}
うわぁ…まだ怒ってる…。
箸で煮物を掴む、お茶碗をテーブルに置く、そんな些細な動作一つ一つで怒りを表しているようだ。
ピリピリとした空気にあてられて、中々食事が進まない。
結局、不知火さんはそそくさと逃げるように帰ってしまった。
残された私はどうすればいいのー!?
それでも私はどうしても聞きたいことがあった。
「久木さん…さっき話してたことですけど…」
私が口を開いた途端、視線をあげた久木さんにジロリと睨まれる。
そのあまりの鋭い視線に、思わずたじろぐ。
「久木さんのご両親って…」
「その話はするな!!」
久木さんは、テーブルに箸を叩きつけるように置いた。
勢いついた箸はコロコロとテーブルを転がり、床に落ちた。