{霧の中の恋人}
「もしかして…久木さん…
酔ってます?」
久木さんはテーブルに置かれた小瓶を手に持ち、ブラブラとそれを揺らして見せた。
「少しな」
「もうっ!体調が悪いのにお酒なんて飲んで!」
「大丈夫だ。
こんなの飲んでるうちに入らない」
久木さんは瓶に口をつけ傾けた。
「ダメですよ!
ほら、それこっちに寄こして!」
瓶を取り上げようと腕を伸ばすも、ヒョイとかわされる。
「イヤだ」
「イヤだって、子供じゃないんだから!」
「子供な訳ないだろ。
子供は酒なんて飲めない」
何度も取り上げようとするけど、その度にかわされて、私は猫じゃらしにじゃれつく猫のようになった。
高いところに瓶を持ち上げられて、奪うことは不可能だと私は諦めた。
「もうっ!
また具合が悪くなっても知りませんからね!」
「心配するな。
いつかの君のように泥酔はしない。
─────…っ」
久木さんは手で口を押さえて、顔を横にそむけた。
…………?