{霧の中の恋人}
疑惑
あれから数日が経った。
大ちゃんとは何回かデートを重ね、大学でも空いた時間があればちょくちょく顔を合わせていた。
将来、教師を目指す大ちゃんは色々と忙しいみたいだけど、空いた時間を見つけて私を構ってくれている。
毎日メールもくれるし、時間があれば電話もくれる。
クリスマスイブも2人で外に出かけた。
ちょっと遠出して、素敵なレストランで食事をとり、夜景を見に行って、プレゼント交換もした。
クリスマスプレゼントに貰った、ピンク色のハートの石がついた指輪は毎日身につけている。
ハァ~、なんか幸せを実感するなー。
お母さん…
大ちゃんが恋人になって、友達もいて、充実した生活を送っているよ。
出来れば、お母さんにも直接報告したかったな…。
きっとお母さんが生きていたら、自分のことのように喜んでくれたに違いない。
クリスマスイブの日、照れながら指輪をくれた大ちゃんの顔が忘れらない。
”今は安物だけどよ、そのうち本物を贈るから、これは将来の予約ってことで…”
顔を真っ赤にしながら、私の左手の薬指に、この指輪をはめてくれた。
自分で言っておきながら、”俺のキャラじゃねー”なんて言って、手で顔を隠してたっけ。
フフフ…
「ニヤニヤ気持ちが悪い」
幸せの余韻に浸っている私の後ろで、それをぶち壊すような久木さんの声が聞こえた。