{霧の中の恋人}
床に突っ伏していたから髪はグシャグシャ。
顔には畳の痕がくっきり残り
涙でアイメイクも落ちて、黒い涙のあとが頬をつたっている。
泣きすぎて、鼻も真っ赤になっているし!
まるでホラー映画に出てくる、ナイフを持ったピエロのようだ。
こんなんで大ちゃんの前に出なくてよかった!
………。
私ずっとこの状態で久木さんと話していたって事!?
恥ずかしすぎるよ!!
久木さんには自分の恥ずかしいところを見られてばかりだ。
いきなり転んで抱きついて
大泣きして
寝顔を見られて
こんな顔を指摘されて
もう絶対に顔を合わせられない!
バシャバシャと顔を洗っていると、洗面所のドアがノックされた。
「入ってこないでください!」
「入るつもりはない。
これで失礼させてもらう。
一週間後の夜10時、また来る。
それまでに、この家の整理をしておくように」
「って、まだ一緒に暮らすなんて認めてません!」
全部信用したわけじゃない。
それにいくらお母さんのいう事だからって、知らない男の人と暮らすなんて出来るはずがない。
「じゃあ、君はどこで暮らすつもりだ?」