{霧の中の恋人}
今日は忙しかったなぁ…。
年の瀬を間近に控えた今日この頃
バイト先の花屋は、猫の手を借りたいほどの忙しさだった。
一年で最も忙しいのは母の日だけど、お飾りや松、お正月をイメージとして作られたアレンジメントがよく売れる年末も一年で2番目に忙しいのだ。
バイトが終わって自宅に戻るころには、もうヘトヘトになっていた。
久木さんには悪いけど、今日は店屋物でもとって食べよう…。
エレベーターから降りると、うちのドアの前に一人の女性が立っていた。
知らない人だな。
何かの勧誘ってわけでもなさそうだし…。
「あの、ウチに何か御用でしょうか?」
私が問いかけると、見知らぬ女性がこちらを振り向いた。
艶のある長い黒髪がサラサラと揺れた。
わっ、綺麗な人…。
背が高くて、ミニスカートから伸びる足もスラーっと長い。
スタイルもいいし、すごく美人…。
洗練された大人の女性って感じ…。
息の呑むほどの美人を目のあたりにして、私が見とれていると、その女性が口を開いた。
「花村瑞希さんね」
整った眉が吊りあがった。