{霧の中の恋人}
結局、久木さんが戻ってきたのは日付が変わるころだった。
戻ってくるや否や、私は京香さんが言っていたことについて質問した。
でも、久木さんは何も答えてくれなかった。
何も聞いても「君には関係ない」の一点張り。
仕舞いには、「さっき聞いたことは忘れろ」と部屋に入って閉じこもってしまった。
まるで毛を逆立てて警戒する猫のような瞳をしてた。
少しは久木さんの気持ちに近づけたと思ったのに、また離れていく。
私は、彼のことをどれだけ知っているのだろうか。
私の知っている久木さんなんて、一欠片にも満たないのかもしれない。
だって、私は彼の仕事のことすら知らない。
私の知らない久木さんの時間は、どんな風に回っているのだろうか。