{霧の中の恋人}
苦いミルクチョコレート
「ハァ~…」
大ちゃんからの着信6件
メール2件か…。
次の日、携帯の電源をいれて溜息をつく。
あの後。
久木さんが帰ったあと、私は携帯の電源をおとした。
大ちゃん完璧に誤解しているだろうし、うまく誤魔化す自信がなかった。
お母さんに、あんな若い恋人がいたなんて言えないよ。
それに、また家に来ると言われたら困るから。
乱れた髪や顔は治せても、目の腫れはすぐには治まらない。
こんな顔、大ちゃんには見せられないし。
何より。
「お前に恋人がいたなんてなー。よかったな」
って言われるのが恐かった。
で、次の日。
携帯の電源を入れたら、案の定、大ちゃんからの着信がたまっていた。
メールも何て返信しよう…。
「ハァ…」
また溜息をつく。
大ちゃんと顔合わせたくない。
目の腫れも、まだ若干残っているし。
今日は、大学行きたくないなぁ。
それに、一週間後にこの家を出ないといけないなんて…。
《君には、この家を出て行ってもらう》
有無を言わせぬような口調。
冗談ではないことは確認済みだ。
朝、大家さんのところに行って聞いたら、本当に退去手続きがとられていた。
家主でもない彼が、なぜ手続きをすることができたのか。
ううん。
重要なのはそこじゃない。
もうこの家には住めないという事実。
お母さんとの思い出がたくさん詰まったこの家から出なくてはいけない。