{霧の中の恋人}

決意虚しく。

大学に着くや否や、大ちゃんの姿を見つけてしまった。

入り口の植木のところに腰掛けて、イヤホンで音楽を聞いている。


もしかして私を待っているの?


どうしよう。
隠れるべき?


隠れていたって、いつかは顔を合わせないといけないわけだし……。

でも、今日は日が悪いというか…。



「瑞希。おはよう」

アタフタしているうちに、あっさりと見つかってしまった。


「大ちゃん!!おはっよう!」

ギャー!
声が裏返っちゃったよ!


「瑞希、昨日の男だけどさ…」

「あ、あの人ね!親戚の人なの!!」

大ちゃんの言葉の全部を聞くまえに、私はそれを遮った。


しかも、思いつきでとっさに嘘までついてしまった。

一度、口にしてしまったのだから、それを覆すことは出来ない。


「はっ?親戚?」


「そー、そうなの。
昨日は親戚の人が、失礼な態度とっちゃってごめんねー」


「…お前に親戚なんていたか?
確か、親戚はいないって…」


「いや、もう本当。
私も知らなかったんだけど、遠い親戚がいたみたいでさ。
それで母の死を知って、訪ねてきてくれて…」


私、何言ってるんだろう。

嘘なんてつきたくないのに…。


心とは裏腹に、口から嘘が次々と飛び出してくる。


咄嗟のこととなると、平気でペラペラと嘘をつけちゃう人間なんだ…。

そんな自分を発見して、自分にがっかりした。




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